日本語と英語の音の違いを意識せよ

Mar 4, 2021/ 更新日:Mar 4, 2021

日本語と英語の音は何が違うか

英語をマスターするのに、おそらく最速だと考えるのが、「英語の音がわかる」ことである。学習分野で大きく分ければ「リスニング」に分類されるエリアだ。

言葉は「記号」や「暗号」ではない。言語学的な意味においては、「記号」としての働きももちろんあるが、言語は「生きもの」であり、絶えず生み出され、消滅し、変化するものである。

日本語の例においても、今から十数年前には「スマホ」なんて言葉はなかったのである。あったのは「ケータイ」であって、この言葉も1990年以前にはなかったものである。言葉は変化するのだ。

そして、その変化は音によるものが中心である。子供が母語を学ぶ過程、人間が言語を獲得した過程、すべて、まず音から始まっているという事実がある。「聞く」「話す」ができるようになった後に「読む」「書く」という手段が生まれたのだ。

つまり「音がわかること」が現在使われている外国語を身につけるという意味において、まず最優先的に尽力すべきことであると断言できる。この重要さ、大事さをまず心に留めておいてほしい。

発音を無視して、ひたすら読み言葉、書き言葉に執着するのは、まったく順序が逆なのである。 すでに世の中から姿を消した言語などの研究をするケースもあるので、書き言葉から入ることは、間違っているとまでは言わないか、英語を使えるようになるという意味においては、、せるようになる、聴けるようになる、英語が書けるようになるという意味の一部に過ぎないのである。おそらく、英語を話せなければ、英語を学ぶ目的の半分もこなせないと考える人が多いのではないか。

「音がわかるようになることは大切だ。では、早速リスニングを始めよう!」と早とちりしてはならない。幼児期を過ぎてすでに母語(第一言語)をマスターしている人間の脳は、「シャワーを浴びるように」英語を聞き続けたところで、簡単に英語が頭に入るわけではない。脳は言葉雑音を区別する。音を言語と認識する際、脳はそれに当たらない英語は雑音、あるいは聞き流すための虫の鳴き声程度の扱いにしてしまう。この能力は、巷のノイズキャンセリング・ヘッドフォンよりもっとAIの効いた実用的なものである。

母語が頭の中に確立されるほど、この傾向は強い。おそらく3年、4年、それ以上毎日浴びるように聞き続けても、英語に慣れるだけで、完全に英語の音を拾えるようになる可能性は低い

その理由を、科学的見地から、まず次の2つの点を理解しよう

  1. 英語と日本語では使われる周波数帯が異なる
  2. 同じ周波数帯でも日本語でない音を聞けば、脳は日本語の近い音に置き換える

まず、1番目からみていこう。英語は日本語よりも高い周波数帯を使う言語である。 正確には、英語の使う周波数帯が日本語より広いのである。

すると、英語の高い周波数帯の音は、普段の日本語を聞く周波数帯の音として脳に認識されていないため、言語ではない「雑音」と判断される。 つまり、脳が「言葉」だと判定しないのである。具体的な数値としては、日本語は125ヘルツから1,500ヘルツの周波数帯で話されるが、英語は(アメリカ英語とイギリス英語でわずかの差はある)、大体1,000から10,000ヘルツ(場合によってはそれ以上)で話されている。この事実そのものは、英語教材の広告などにも使われた事があるので、知っている人も多いはずである。

次に2番目について考えよう。例えば、うがいをする真似をしてみよう。それっぽく見せるために、喉を「ぐぁぐぁ」鳴らして音を出してみる。

喉から口へ、変な音ではあるが、発生音になっているはずだ。しかも、ほぼ日本語の周波数帯に収まる音である。しかし、脳はこの音を、言葉だとは認識しない。それでも、人にどんな音かを説明するときは「ガラガラ」と伝えるはずである。実際には、日本語の音で無理やり表そうとしただけで、カラうがいの音が「ガラガラ」と表されるような、単純な音ではないことは確かである。

このように、日本語の周波数帯の音であっても、脳が日本語もしくは言語として認識しなければ、わざわざ日本語の近い音に置き換えてしまうのである。要は、四捨五入するかのごとく、音が丸められてしまうのである。正確には、うがいの音を日本語の50音で表現することはできないのである。

英語と日本語に話を戻して考えてみよう。日本語には英語のRの音Lの音も存在していない。 だから、ネイティブが“rice”と発音しても“lice”と発音しても、脳ミソは勝手に日本語の近い音に置き換えて「ライス」という音にしてしまうのである。 一旦、脳が置き換えてカタカナ化しまったら、脳内で「ライス」と反復してしまう。 つまり、どれほどシャワーを浴びるかのごとく英語を聞き続けても、永遠に脳が置き換えた「ライス」で認識してしまう以上、脳には正確な英語の音が伝わらないのである。

幼児期の場合、母語の音の認識もまだ不完全であるため、この勝手な「置き換え」を脳が行わないのである。噛み砕けば、置き換えのもととなるデータベースが、脳内にまだ完成していないので、置き換えることができないのである。本来、置き換えは脳の高度な働きだと言えるが、幼児の脳はそれを行わず、“rice”と“lice”は別の音として脳に伝わるのだ。

日本語をすでに身につけてしまっている我々は、違う言語の音は日本語の別の音で置き換え、聞き取ろうとする高度な働きの恩恵を受ける。

LとRの音の混同は日本人の典型例としてよく取りあげられるが、他にもBとV、日本語の「あ」で一括にしてしまっている音など、脳が普通に日本語に置き換えて処理してしまうものがある。

まとめ

  • 英語と日本語では言語が使う周波数帯が違う
  • 同じ周波数帯でも日本語でない音は脳が日本語の近い音に置き換える

なぜ日本人には特に英語リスニングが難しいのか

「日本人には英語リスニングが難しい」とよく揶揄される。

もしかして、「リスニングが苦手なのは特に日本人に多いらいしよ。ドイツ人などはもっと楽に英語のリスニングができるよ。ドイツ人って凄いってことなの?」と思う人がいるかも知れない。

ドイツ人を例に上げたが、フランス人でも近場の国の人は同様にリスニング能力の開花は早い。

実は、日本語の子音や母音などの音の要素(音韻)の数は世界中の言語の中でも少ない言語のひとつである。日本語の音韻の種類は約25種類に対し英語では音韻が約50種類と倍である。例えば“umbrella”という単語の、“u”と“a”は日本語の「あ」では表せない音になっている。

日本語では「あ」で済ませられるが、ドイツ語やフランス語では、日本語より数多くの「あ」の音があるのである。例えばドイツ語の“Tür”はカタカナ発音ではテューア、“Frau”フラオなど、日本語にはない「ア」の音がたくさんある。その沢山の「ア」でもとの英語の音を置き換えるのと、たった一つの「あ」しか持たない日本語で置き換えるのとは、発音の再現性の精度が異なるのだ。

ドイツ人でもフランス人でも、発音を自分の言語の音に四捨五入して付け替えるという、脳内でやってることは日本人と同じなのだが、端数が大胆に切り捨てられる日本語と、あまり端数処理しなくても収まってしまう彼らの言語とでは、最終的な脳内での再現性が異なり、結果的に日本人がリスニングが不得手のように見えてしまうだけである。

けれども、結局、音を置き換えて英語を学習している限り、日本人相手の、日本人から見て英語ができる人程度にしかならない。

当サイトで何度か紹介している「英語脳」を獲得すれば、音韻゛少ない日本語が母語であるわれわれであっても、普通にネイティブと話せて、意見も言うことができるようになる。

ちょっとメモ 音をデジタル化する技術に興味がある方は、次のような例えがわかりやすい。 例えば、日本語システムは特定の母音を量子化する際に4ビットで行うが、ドイツ語などは8ビットで行うというような、量子化ビット数が違う感じである。
まとめ 日本語の音韻は少ないため、脳内で近場の音に置き換える癖が強く出る

音を知る方法

英語の音が大切だということが理解いただけたとしたら、その音をどうやって知るかということが大切になってくる。

結論を言えば、音は聞いて真似て覚えていくのが一番正確だ。 しかし、それ以外の方法も習得しておく方が学習が早まる。 その一つとして、発音記号を学ぶ方法がある。

発音記号を学ぶことには、もちろん意味がある。それは、脳に「この英語の音は意味を持った音だ、注意せよ!日本語の音には当てはまらない新たな音なのだ!」と知らせる術を身につけることである。 脳が、音の解釈を変えれば、音の認識を変えれば、急激にリスニング能力が高まる。それが、発音記号を覚えて意識することにより、脳に聴き取りのヒント、注意を与えるわけである。 音楽の記号を覚えることと似ている。

単純でベタではあるが、発音記号の正確な音をひとつひとつ覚えていく作業を行うのだ。発音を丁寧に行う、英単語をアルファベットでスペルアウトできなくても、発音記号で書ける程度にまで上達することで、結果として恐ろしいくらいに英語のリスニング能力が向上するのである。この技術は、音楽で言う絶対音感のような特殊技能は必要ないので安心てほしい。

発音には、こだわって時間をかけることをおすすめする。 発音ができれば聞き取れる、聞き取れれば脳に入れることができる、英語の情報利用が莫大に増える。BBCみたいなものが、そのままニュースとして脳に飛び込んでくるのである。 ここは、使える英語力を身につけるだけでなく、今後の伸びしろに関わる部分である。 具体的な方法は、次回からのページに譲ることにするので、興味がある方は読んでいただきたい。

ただし、発音記号など覚えたくないのなら、ひたすら集中して、耳で聞いて脳に意識させる方法でも構わない。ただし、日本語のカタカナを介してはいけない。素の音でそのまま、言語だと認識させて脳に流し込むのである。

まとめ 音を知る為に発音記号の音を覚えよう