英語ディクテーションの沼に陥るな!

Mar 3, 2021/ 更新日:Mar 3, 2021

本ページでは、イングリッシュ・ディクテーションのことを単にディクテーションと表記します。

ディクテーションの効果は何か?

英語のディクテーションは、耳に聞こえてきた英語を一語一語書き取るトレーニングである。

聞こえた英語を書き取るには、集中力が必要である。 その意味で、ディクテーションは、効果の高いリスニングトレーニングになるとされている。

ディクテーションは誰にでも効果が見込めるか?

リスニング能力をディクテーションで鍛える試みは、英語学習者の誰にでも効果が見込めるものかについては、答えはノーである。

中小学校や高等学校で、授業の一環としてディクテーションが取り入れられることがあるため、多くの人に効果があるものだと信じている人が多い。

しかし、英語が流れてきても、それが音楽や虫の鳴き声程度にしか脳で認識しないのでは、ディクテーションによるリスニング(ヒアリング)力アップ効果は期待できないのである。 皮肉を言えば、集中力を養うなどの意味では、効果は期待できる。やらないよりマシと言う人もいそうだが、ディクテーションは苦行でもあるので、何のためにやるのかぐらいは認識しておく必要があるだろう。

ディクテーションで効果を出すには、予め英語が言葉として聞こえる能力(脳力)を獲得しておく必要がある。

もし、「聴いているだけで英語が耳に入る」などという宣伝文句を、「英語がわかるようになる」という意味に理解しているのなら、注意力が低すぎる。 この手の宣伝文句は、その文言通り「聴いているだけで英語が耳に入る(が、英語がわかるようになるか、英語を認識できるようになるかは知ったことではない)」という、カッコの部分が省略されているのである。 嘘は言っていないのかもしれないが、悪質である。

大多数の学習者にとって、英語を聞き流したところで、リスニング能力は強化されない。例外的に、英語に初めて触れる、そして聞く人が、英語に慣れるという意味においては魔除け程度の効果はあるとは思う。

ディクテーションのメリットは何か?

ディクテーションとは、つまるところ、英語の聞き取りと書き取りトレーニングである。 日本でも同様であるが、英米諸国でもミススペルや、文法ミスをするとネイティブはその人を「軽くみる」傾向にある。 例えば、単数形、複数形、過去形を間違い、前置詞が抜け落ちていたりすると、バカっぽくみられてしまう。これは、上手な日本語を話す外国人が「てにをは」を少し間違えるだけで、われわれが「外国人だからしょうがないか」と低い次元にジャンル分けしてしまうことと同じである。

そのため、ディクテーションでミススペル無し、文法ミス無しで、ほぼ完ぺきにこなさなければ、トレーニングにならない。 場合によっては発話者のミスを訂正し、正しく英文を書き直してやる能力にまで高めれば、貴重な技術になる。これが完璧であるほど、英米人からは「侮れない外国人、デキる日本人」と認識される。

このレベルは極めて高いもので、普通にこなせるなら、現地のニュース紙や新聞記者としても十分な戦力になる能力だ。むしろ貴重な人材である。 しかし、結論を言えば、英語を使えるようになりたいだけなら、そこまでこだわらなくて良い。

英語を聴く能力と書きとる能力を確認せよ

英語を聴くことと書くことは異なる技術である。 リスニングというのは、一般的には、好きな部分、自分が興味ある部分、分かる部分にフォーカスを当てて聞くということだ。

知らない箇所は無視してしまっても、全体として意味はつかめてしまう

一方、書き取り技術の方は、わからない部分については、そもそも書けないわけだから誤魔化しができないものである。 わからない部分はそのまま空白答案になり、自分の足らない部分が明らかになってしまうのだ。 実際に英語を書き取ってみると、意外なところに自分の弱点を発見するので、英語に自身のある人ほど試してみるとよい。

誤魔化しが利かないと書いたが、聞き取れなくても、文法力を駆使して、どのような動詞の形が入るべきなのかなどは、想像がつく。いわゆる穴埋めディクテーションは、実際は文法力がモノを言うことが多いのだが、それはそれで構わない。聞き取れない部分を文法力でカバーするというのは、ネイティブも普通に行っていることである。

書き取れなかった部分が、そのまま自分の弱点なので、自分の弱点と実力を簡単に把握できるのである。 自分の苦手な発音が把握できれば、その部分を強化するトレーニング法を目的を持って探すことができるわけである。

ディクテーションの効果的なトレーニング法

本サイトは積極的にディクテーションを奨励するわけではないが、たまには脳トレの一環として試すことは悪くない。

学習者には難しいディクテーション素材は不要だ。素材、会話が難しくなればなるほど、プロの経験の長い通訳でも普通にミスする。だから、易しい素材を選ぶことを強くおすすめする。

英語学習者がディクテーションに関しては、「完璧」に書き移せる程度のレベルのものを選ぶと良い。発音ははっきりとされているものを選ぶほうが、目的に叶う。

わからない箇所が出て少しずつ出てくるような素材や、ハードロック系の歌詞で代用するのはオススメしない。 ディクテーションは聞き流すトレーニングではないのである。音楽に合わせてその時のノリで歌詞を決めたりするようなトレーニングではない。

自分の英語力覚醒レベルに合わせた、言語として認識できる英語が音として流れてくる素材である必要があるのだ。

ディクテーションの素材選び

気休めで、映画のワンシーンなどをディクテーションするのは楽しいが、素材として選ぶなら注意が必要だ。 というのも、インパクトのあるシーンは、役者の、その役柄と場面に合わせた派手な演技が入ることが多いため、実用的ではないのだ。逆に、使えるシーンは極めて単調で、面白くない展開の部分である。何れにせよ、文法や語彙力、発音の変化についての知識が足りていない初心者や中級者は、これらを素材としては選ばないほうが良い。

万人におすすめできるのは、やはりディクテーション用に作製された市販の教材を利用することである。素材の会話がつまらないということはさておき、選ぶ手間も省けて近道である。適当なTOEICの練習素材を利用しても良い。

あるいは、NHKのラジオ英会話あたり、その周辺を素材として利用するのもローコストな学習方法である。 ここでは、『NHK CD BOOK Enjoy Simple English Readers Japanese Folklore (語学シリーズ) ムック』を推薦しておく。安いし、書籍版を入手して音声を手に入れておけば、スクリプトの方は Kindle からも読める。 内容は、「花咲かじいさん」「雪女」「一寸法師」などなので、馴染みがあるものなので気兼ねなく練習できるのもポイントである。

英文は理解できるのが、聞き取れない音が多い場合は

スクリプトを見れば英文は理解できるが、音源から聞き取れない音が多いと感じたら、ディクテーションはとりあえずやめてしまおう

この状態でディクテーションを続けても、苦行になるだけで足踏みするだけである。

ディクテーションから発音練習に切り替え、シャドーイングで発音をトレーニングすることに徹するべきである。 なお、添削付きの「シャドテン」という商用サービスもあるので、一人でブツブツ練習することが苦痛に感じたら、チェックしてみると良い。

発音の変化が脳ミソにコピーされた頃に、再びディクテーションに戻れば、霧が晴れたように能力が開花しているはずである。

実践の場では、インド系の英語などでディクテーションできるは、今後重宝されると思うが、あまりに発音が特殊すぎて英米人ですら難関だそうである。

ディクテーションで結局、何を狙うか?

ディクテーションでは、聴く能力と書く能力を結びつけ、英語力強化には優れたトレーニング法であることは確かである。

しかし、このトレーニングをやり切るには集中力と膨大な時間が必要になる。 書き起こしただけでは役に立たず、正しく書けたかどうかは必ずチェックする必要があるからである。

独学でこのトレーニングが有益かという点には、私には懸念もある。 子供の授業のように、ネイティブの講師が教壇で発話した内容を、生徒がそのまま書き写し、講師のチェックがすぐさま入るという環境では、たしかに有益に違いない。

だが、独学で同様の環境を備えることができるかという点が難しいのだ。 オンラインでネイティブがマイクに向かって話し、モニター越しの生徒がそれを書き取る、そしてウェブカメラかスマホで書き写したものを映像で送り(あるいはタイプしたテキストを送るなどして)、チェックしてもらうということは、理屈の上では可能だ。 でも、試してみると実に面倒である。 むしろ、細かい作業に時間と手間を取られ、本体の作業に集中できない。

ディクテーションは中途半端に行ってしまうと、効果が半減する。、完璧にこなそうとすれば、書き取りのために音声を途中で止め、再生しなおす、という作業に、想像以上の手間がかかるものである。 ミススペルを放置しているようなディクテーションは、職業訓練では有効であっても、英語に磨きをかける方法としては愚策なのだ。

効果を狙うと、どうしてもスペルにこだわることになり、音の連結部分が会話に出てくると、どう書き取るべきか迷って立ち止まることになる。「書く」という作業に必要以上に労力を取られるのである。 つまり、ディクテーションというのは、そういうトレーニング法なのである。実践してみるると、それほど単純な流れ作業にならないことが実感できる。 ディクテーションのトレーニングそのものは達成感を含め、やりがいがあることは認めるが、残念ながらこれだけやっていれば英語が使えるようになるというものではない。

本サイトの意見としては、ディクテーションは試してみて効果を感じられたら、継続すれば良い。もちろん、それ以外の練習にも時間を割くことが前提だ。一方、多くの人が当てはまると考えるが、効果が薄いと感じたなら、自分の弱点確認の手段として利用するのが、最も効果的な利用法だと考える。

まとめ ディクテーションは、自分の弱点確認の手段である