英語脳を考える
Mar 1, 2021/ 更新日:Mar 12, 2021
英語脳とはどういうものか
2000年代初旬から、「英語脳」という言葉が流行りだした傾向がある。 脳機能科学的にどうだとか、さまざまな根拠を英語学習に応用しようという一環の言葉選びだと思うが、ここで言う英語脳は「英語だけで考えよう」とかと同じ意味である。
念の為に断っておくが、当サイトは「英語脳」を「英語だけで考える」癖をつけるという意味で、肯定派である。 一方で、「日本語を介在させる」ことを暗に奨励する否定派ややや否定派も存在する。
おそらく、学習法においてはどちらが正解とかいうものは存在しないと私は考えている。自身の経験では、英語脳を獲得するほうが学習効率がよく、しかも実践的に使える英語になるという意見をもっている。英語脳を獲得する努力はやりがいがあるものだからだ。
だからといって、まわりのバイリンガルが全員英語脳派かといえば、そんなことはない。日本語環境のみで英語を身につけ、日本語を介在させつつ、普通に英語を話せる人も数多い。英語が得意な著名某記者は、日本語で考え、それを一瞬で英語に翻訳して、ネイティブと英会話してネタをとってくるという人がいる。だからといって、英会話のぎこちなさはない。
使える英語学習法は様々なパターンがあることだけは確かだ。だからとりわけ「英語脳」に拘る必要はないとも言えるが、当サイトは拘ることをおすすめする。 理由は、後々、記事を追って説明する。
最近の脳科学は様々なデータを提供している。しかし、言語習得に関する定説や、「この方法なら絶対に外国語がマスターできる」という科学的なデータはまだ存在せず、語学教育分野では試行錯誤を続けている。
わずかな根拠を見つけて、学習プログラム化したようなものは様々存在するが、誰にでも適用できるわけでもなく、効果にしても誰にでも等価というものではない。こういったプログラムに関しても、商用・非商用を問わず、今後もいくつか紹介することがあると思うが、まずは体験版を試して自分に合わないと思ったら無理する必要はない。
かつて、CNNニュースで取り上げられていた、幼少期にバイリンガルになった人に関する面白い実験がある。その実験では、医療機械のMRIを用いて、母国語のみを使う人と、バイリンガルの人に対して、それぞれ話したり聞いたりするときに使われる脳の部位を確認するという企画であった。 結果から言うと、母国語のみを使う人と、バイリンガルの人で使われる脳の部分に差異がないことが確認された。幼少期にバイリンガルになった人は、英語を使う時も別の言語を使う時も、脳の同じ部分に反応が出たのである。
これから推測される結論は、幼少期に2つの言語に接すると、脳は1つの言語として認識し、混乱せずに使い分けることができる。さらに、脳の同じ部分を使うので翻訳する時でもタイムロスがないということである。 つまり、バイリンガルの人は、母国語と外国語の間で「翻訳」を挟んでも、会話に乱れもなく、翻訳時のタイムロスも起きないようである。つまり、バイリンガルにとってはある英語表現を別の英語で言い換えるのか、日本語で言い換えるのかは同じタスクとして、脳の同じ部分で扱われるわけだ。
一方、大人になってから第二言語を自在に操れるようになったタイプのバイリンガル(後天的バイリンガルと表現する)はどうか。同企画では、韓国語を母国語とし、10代の時に米国に渡り定住した人(ネイテイブ級の英語が使える人)を対象に同様のMRI実験が行われた。
実験では、被験者の脳は母国語で考えた時と、英語で考えた時は脳の別々の部分に反応がみられたのである。
この実験結果から判断できることは、脳としては10代以降に新たな言語を身に付けた場合、その言語用に新たな脳の領域を割り当てている、という事である。
この結果は、そのまま実験結果を信じるのであればではあるが、日本人の英語学習者にとっても非常に参考することができる。コンピュータを例に上げて説明するが、日本語も韓国語も2バイト言語であり、言語構造も似ている。また両者間の翻訳も容易である。誤解を恐れずに言えば、韓国語は日本語の機能限定版、廉価版ともいえる。そのため、この場合の被験者を韓国語が母語の人にした実験は、そのまま日本人に当てはまると考えても問題なさそうである。
英語学習者が、この実験結果から何を読み取るかであるが、もしかして、幼少期にバイリンガルになってしまっている人のように、脳の同じ部位が反応するのが理想だと読み解く人もいるかも知れないが、これでは普通に日本語ベースで英語を学習しているときの脳の反応と変わらない。やはり、後天的バイリンガルは母国語を使うときと、英語を使うときは、脳の別の部位が反応するという点がポイントではないかと考えている。
日本語が母語で、第二言語として英語を習得しようのなら、「英語だけで考える」こうを実行するために、今まで獲得してきた日本語能力とは別に、それ用の脳の使用部位を作り出す必要がある。 上の実験結果で示された事実に限れば、後天的バイリンガルが英語で考える時は、実際英語だけで考えている、という事実で、間に母語は介在していないのである。その点が、結局は一番重要なところだと考えるのである。そうするために、脳をどう使うのが正解かを考えてみようと言うだけだ。
紹介した実験と同様のものは至るところで行われているようである。 英語が使えない日本人の脳をMRI診断すると、日本語を話すときも英語を話すときも同じ部位に反応が出るようだ。 このことは、英語と日本語を分離していないと言える。
逆に、英語ができる人に同様の実験を行うと、英語で考えたり話したりする時と日本語で同様のことをするときとは、脳の異なる部位が反応した。これは「脳の英語用の部分の割り当て」が示唆される結果になっている。
脳の部位で思い出したように書き加えるが、日本語が母語で、後天的に英語ができるようになった人と英語を話せない人との間には、日本語を話す時の「小脳」の変化が異なるようである。これは、他言語を習得することにより、母語にも何らかの影響を与える可能性を示唆している。
ただ、実際のところ脳のことはよくわからない。 定説もひっくり返ることが頻発しているようであり、脳機能科学的にどうのこうのという説明が、果たしてどれほどの意味があるのかも、私自身は懸念もある。
特に、痴呆症や、脳梗塞などの臨床データを参照すると、例で上げた程度の脳の作用は大した問題でもないように感じてしまう。 例えば、バイリンガルが痴呆症になった場合、どちらの言語に反応するのか、バイリンガルのような脳を獲得しておけば、脳梗塞時に回復しやすいものなのかなど、今後調べ尽くすべき課題もまだまだ多いのである。
だから、「英語脳」はあくまで、「英語で考える癖」を付ける程度の意味合い、方法論だととらまえて、それ以上の科学的領域には踏み込まないほうが、英語学習のためには時間節約になると考えている。
少し前の、科学紙発表であるが、脳卒中などで文字が読めなくなる「失読症」は、アルファベットを使う西洋人と漢字を使う中国人や日本人では、脳の損傷部位が違うこと指摘されている。
日本人の場合、脳に損傷を受けるとひらがなが書けなくなったりだとかの一見奇妙な障害が残ることがある。 概して、言語圏、言語体系が大きく異なると、その言葉を使用するときの脳の領域が異なるという事がわかる。 このことから、言語は単純に置き換え可能なものではないことが伺える。例えば簡単に「日本語」から「英語」に置き換える事ができるようなものではなく、読書時に、英語と日本語で、脳の違う部分を使っているのであれば、英語で読むのであれば、英語用の脳の部分を新たに開発してやるという姿勢が必要だということなのだ。
そのため、短期間で習得できてしまうような生易しいものでもないことは、上の例からもおわかりいただけると思う。
本サイトで強調する「英語脳」を獲得した後に、失語症に陥った場合は、日本語だけ、もしくは英語だけ失われるという症状が起き得るのかどうかは、今後の研究発表を待ちたいところである。